橋本愛樹

近頃、「装飾アルファベット」なるものが気になっている。ご存じの方もいらっしゃると思うが、簡単にいうと、15世紀の中頃、ヨーロッパのあの画期的な印刷術の発明前夜に登場した、銅版で作られたアルファベット23文字なのだが、個々のアルファベットを構成する「線」に、自然界のモチーフや想像上のモチーフが用いられている。日本でいうと、平安朝の「葦手」をもっと複雑にしたものといえるかもしれない。 文字という抽象物が、具象的なイメージでできあがっているというしろものなのだが、これがおもしろいというか興味がつきない。個々のモチーフが、なぜこんな形で組み合わされて、このある一文字を作っているのだろうか? そもそも、この人物はいったい何者なんだ? この動物は? 小さな文字に隠された小さな謎が、やがてヨーロッパ中世の基層文化への興味の扉を開いてゆきもする。 でも、なによりも、文字自体が視覚的に楽しいし、見ていて飽きないのだ。それにくらべると、このモニター上の文字はなんとも……と、また愚痴っぽくなってしまった。